食べ納めには意味がある。少なくとも、年末という空気の中で味わう一口には、いつもと違う感慨が宿るものだ。シュガーバターのシンプルな甘みも、ピーナツバターの濃厚な塩味も、どこか特別に感じられるのは、年が変わるからなのか、それとも食べる側の僕が変わるからなのか。
僕はクレープ屋のカウンターで、何度も迷った。店の外では冬の空気が鋭く冷たい。深夜に近い時間、年末特有の静けさが、妙に耳に残る。けれど、その冷たさの中でほのかに漂う甘い香り――焼き上げられる生地の匂いが、どうしても僕を立ち止まらせる。
「いらっしゃいませ。今日はどれになさいますか?」
店員さんが笑顔で声をかけてくる。年の瀬だというのに、疲れを見せないその顔は、このクレープ屋の象徴みたいだった。
「うーん……シュガーバターにしようかな。でも……ピーナツバターも捨てがたい。」
「どちらもおすすめですよ。どっちも食べ納めにぴったりですから。」
その言葉に、少し救われた気がした。食べ納めに「正解」はない。あるのは、ただ一つを選び、最後まで食べきること。結局、僕は二つとも注文した。シュガーバターとピーナツバター。それぞれに違う年の記憶を刻んでもらうために
シュガーバターのクレープは、驚くほどに素朴だった。温かい生地の柔らかさと、じんわりと染みるバターの香ばしさ。砂糖の粒がカリッと舌の上で弾けるたびに、幼い頃に戻るような感覚があった。クリスマスが終わった後の寂しさと、新年を迎えるわくわくが入り混じった、あの不思議な時間――その甘さとよく似ている。
一方のピーナツバターは、まるで対照的だった。濃厚で、舌にまとわりつくようなその味わいには、少し大人びた年の瀬が宿っている気がする。しょっぱさの後にじんわり広がる甘さは、一年のあれこれを噛み締めるようだった。
クレープを食べ終える頃には、心も体もじんわりと温まっていた。これが本当に「食べ納め」かどうかは、来年の僕にしかわからない。きっとまたこの店を訪れることだってあるだろう。それでも、この瞬間は確かに「特別」だった。
年末の風が、クレープの包み紙を軽く揺らす。その音が静かな街に吸い込まれる頃、僕は来年もまた、こんな瞬間を迎えられるよう願った。
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